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頭脳明晰、容姿端麗。頭の良さをひけらかすことなく、いつ如何なる時でもさわやかな笑みを浮かべる彼の朝は、さわやかさとは程遠い株価チェックの日課から始まる。はずだった、のだが。


「あーっ善透様!新聞見ながらご飯はいけませんよ!」


大慌てで彼の手から新聞を奪い取るのは、朝でも夜でもテンションの変わらないただ一つの掃除機、もとい御庭番、渋谷 サビ丸だ。


彼は未だ認めていないが、彼の父からの命により彼の護衛を任されている。御庭番と自称するものの金髪碧眼で堂々と登校するあたり、忍ぶ気は微塵もないようだ。

安全で平穏な平凡ライフを送るため何度か失踪してみたりもしたが(現在サビ丸と朝餉を共にしていることから明らかではあるが)成功した例はない。

何かにつけて騒ぐサビ丸と同居する破目になってからというもの、眉間の皺は増える一方だ。しかし、


「はいはい。で、今日の朝飯はなに…、…」


目の前に広がる豪勢なメニューに、(家政婦としてなら大歓迎なんだが)と思わずにはいられなかった。




「善透様ー!お寒くないですかー!」


登校もサビ丸と仲良く2ケツだ。目的地が同じなのだから、ここで逃げても仕方ない。むしろ自分で漕ぐ手間が省けて楽だ。

サビ丸の背を眺めながら「黙って漕げ」と憎まれ口を叩いても「了解しましたー!」なんて嬉しそうに返してくる。
何が嬉しいのかさっぱりだが、なんとなく苛立ってきらきらした頭をはたいてみた。

「なにするんですかぁ」とこちらを振り向いたサビ丸がやはり嬉しそうだったので、衝動のままに、も一度ぺちりとはたいておいた。



教室に入るとまず可愛らしい女の子たちが挙って挨拶をくれる。

それに笑顔で応えながら、近づいてくる女の子を片っ端から身体検査しようとするサビ丸を全力で止めるのが彼の新たな日課になりつつあることに、彼自身は未だ気づいていない。



先生の出張により、五時間目の体育は自習になった。

歓声を上げながら各々好きなことをし始めたクラスメイトを後目に、グラウンド脇に腰を下ろして、彼はぼんやりと空を眺める。

いつもなら綿貫と共にサッカーにでも興じるところだが、生憎今日は欠席だ。

はしゃぐクラスメイト達に混ざる気にもなれず、悠々と流れる雲を目で追う。

そんなことをしているうちに、春には程遠いものの、一月にしては暖かい気温とゆるやかな風に誘われ、昼寝でもしたくなってきた。

サビ丸お手製、五段重ねの重箱をたらふく食べた後ということもあり、芝生に寝転んだ途端眠気がやってくる。


「食べてすぐ寝ると牛になりますよ」


諌めというより揶揄のような口調で、サビ丸は彼の顔を覗き込んだ。

日の光にも負けないようなきらきらしい金髪を見ながら、「お前も道連れだ」とサビ丸の右腕を引く。それに逆らわず芝生に横になったサビ丸は、その丹精な顔をだらしなく崩して嬉しそうに笑った。


「いい天気ですね」

「ああ」

「お洗濯がよく乾きますね」

「ああ」

「今日のお夕飯は何がいいですか?」

「ああ」

「麻婆豆腐とエビチリですか」

「ああ」


帰りにスーパー寄りましょうね、なんて笑う主婦染みた御庭番が既に彼の日常の一部であることなど、気づかないふりをして目蓋を閉じた。



とある秀才のおだやかな一日