パラレルニルツンマイバレンタイン。マイケルカタコイテイスト。

日本へ留学してからもう半年は経っている。四季豊かな国はマイケルを悩ますこともあるが、大体においてはここでの生活を謳歌していた。友人も出来たし、勉学も捗っている。たまに郷愁に襲われるのも穏やかな日々のちょっとしたスパイスだ。
授業が終わり学校よりさる家へ訪れたマイケルは椅子に凭れかかり、青い目を見詰める。澄んだ空の色が綺麗で宝石みたいだけれどずっと覗く訳にもいかず、紅茶を口に含み、さも自然を装ってそういえばと早速話の種を切り出す。
「日本だとバレンタインは好きな人にチョコレートをあげるって、今日友達に教えてもらった」
「あー、バレンタインか。俺も何回か受け取ったことがあるなあ」
彫りの深い顔を緩め懐かしむように天を仰ぐ彼は同じ英国出身でマイケルとよく一緒にいることが多い。彼と知り合ったきっかけは、こちらへ来てから宗教と携わることが少なくなったマイケルが近くに教会があるか調べ、辿り着いた先の牧師がニールという男だったのである。毎週日曜日に教会へ通う内に親しくなりこうして平日でも気軽に会う仲になっていた。歳も離れているし友人とは違う変な関係だと自覚していて、もやもやしつつもマイケルはテーブルに頬杖を突いて向かいのニールを眺め、ちやほやされたりするのかなと妄想する。
正直、ニールはかっこいい。マイケルもしばしば告白されるがニールの容貌は整っているし、冗談も言うけれど子供っぽくないというか、なんだかんだ落ち着いていて面倒見もいい。恋愛のことはあまり喋らなくてもモテるんだろうと分かる。分かっていて不機嫌になったマイケルは溜め息を落とした。
理由なんて決まっている。感情を乱す原因はひとえにニールを慕っている故である。
ニールが好きだと気付いた時はつい最近のことだ。兄のように心配されたり猫のようにじゃれあったりしていたら、いつからかその存在に惹かれてしまっていた。もちろん宗教で同性愛は罪だからどうしようもなく、秘めた恋をひたすら隠して過ごしている。
でも探りぐらい入れたっていいんじゃないか、思いを伝えるんでもないしと己を鼓舞し、マイケルは疑問符を放つ。
「今年はさ、貰いたい相手はいるのか?」
紅茶を飲んでいたニールはカップを静かにソーサーへ置き、肩を竦めた。同じくマイケルもポケットに手を突っ込み、体を縮める。
「ストレートなんだか遠回しなんだか。お前さん、俺がいるって言ったらどうするんだ?……まあ答えは、イエスでありノーってところだな」
「貴方も随分ぼかしてるんだが」
「そりゃ貰えるなら嬉しいけどな、残念なことに好きな相手から貰っても俺の立場上困るんだよ」
「じゃあニールの好きな人って?」
「……お、ま、え、さ、ん」
ウインクを一つ飛ばしてふざけた台詞を抜かす。拳を掲げ、あからさまな怒りをあらわにする。
「こういう時何て言うか知ってるか?……冗談はよしこさんって言うんだ」
ニールが怯んだ隙に握り締めていたチロルチョコを顔面へ投げつける。二、三個、塊の攻撃を喰らって痛みに呻いたニールを余所にマイケルは頬を染め笑った。
買ってて良かったバラエティパック。あって良かったお小遣。ゴディバは高いから仕方ない。こんな際どいやり方でしか出来ないけど、一応形だけでもチョコレートを渡せたことになった。いきなりかなり酷いアプローチだけど、どうせ百万回の失敗の一つになる。失敗を重ねて人は成長するんだと信じている。多分。
ニールは額を摩りながら睨み、涙を浮かべる。海が波打っているような珠玉の瞳に吸い込まれそうで怖いほど美しい。
「ったく、可愛いげがないなあ。わざわざ義理チョコなんか用意するなっての」
わざわざ用意して悪かったなと文句を垂れようとしたがニールの言葉に首を傾げてこう続けた。
「えーっと、ギリ……うん、ギリって何だ?」
何だか漫画のラスボスに出てきそうな名を繰り返すとニールはぽかんとマイケルを凝視した。
こっちみんなと唇を尖らせておかしな発言だったかと顧みる。いくら考えてもチロルチョコ以外、落ち度はないはずだ。
されどニールは徐々に眉を顰めていって、とうとう頭を抱えていって。
「……あー、マイケル。とりあえず、ありがたく、これ、貰っとく」
ひらひらとチロルチョコを翳し、なぜか俯いたニールの耳はひどく赤くなっていたのだった。

まさかのまさかで間に合った、メモに置いてたやつです。
さんだったかちゃんだったか忘れた。すごろくオガのマイケルっぽくなりました。



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