原作とあまり変わらない現代パラレル。男子校設定。二人がちょっとひどい
人気があるとは知っていた。知ってはいたけれど、よもやマイケル相手にラブレターを書く人間はいないと信じていたのだ。
今でこそ違うが、真面目な優等生として名を馳せるマイケルをニールは当初お堅い少年だと認識していた。校則でも不純交遊は禁止されている。それを実直に守る品行方正な印象が学校に蔓延し、碌に喋らなかったニールも同感であった。いつしか親睦を深め、ただならぬ仲にクラスチェンジした現在は偏見を払拭し、マイケルはむしろ恋人の可愛らしささえ覗かせていた。
だからこんな事態にまざまざと遭遇するとは、まさしく予想外だった。
下駄箱からするりと落ちた封筒を拾う。綺麗な百合の絵が施された真っ白な物だ。
裏返す。差出人は無記入。ニールは頭を抱えたくなった。古風で、しかしながら情熱的で、沸々と黒いわだかまりが溢れてくる。
「ほー、ラブレターか?」
「僕宛てだぞ、返せって」
マイケルはニールから手紙を無理矢理奪い、丁寧に封を開け始める。阻止するように首に巻き付いてべったりと密着する。近くの頬が赤く染まった。
「ちょっとだけならいいが、一応浮気は許さないぞ。一応な」
「はいはい、心配しなくても浮気なんてするつもりはないさ」
「なら別に中見なくていいだろ?」
「もしラブレターならごめんって返事しなきゃいけないじゃないか」
肩を竦める。謝罪をするあたり律義だ。そんなところも好いてる一部なのは真実で、逆に悩ませる原因でもある。どうせ断ると自惚れているが、わざわざ返事をするマイケルも何だか面白くない。
隙を突いて再びこちらにラブレターの所有権を獲得する。目を見張る彼にしれっと、恋人の俺にも見る資格はあると都合の良い屁理屈を述べる。
「こっちにはプライバシーがあるっ!」
背伸びをし、必死に取り戻そうとするマイケルをかわしながら、勝手に読み始める。
「えー……マイケル、突然の手紙で失礼します。最近、悶々とした気持ちを爆発しそうで、気付けばペンを走らせてしまいました。先日初めて見かけた時から気になりはじめ、今ではすっかり、常に姿を探してしまうぐらい恋心を寄せてしまってることを自覚しました。あの瞳に見つめられたい、少しでも話したいと想いが募るばかりで、このままでは何も手につきません。せめて友人として関係を持ちたいのです。どうかマイケルの力で、彼を紹介して頂けないだろうか?……不良だと噂されてても……ニール・ローウェルが気になって仕方ありません…………って俺か?」
「……ニール、だ」
文の最後に聞かない名前が綴られている。
しばし沈黙する二人。展開が斜めにいっている。重い空気が漂う。打ち破るつもりで口を開く。
「オレサマはハンサムだからなあ」
「自意識過剰だな」
呆けるニールに対してマイケルは冷静に恋文を引き剥がす。
置いてかれていると感じ、矢継ぎ早に告げる。
「自意識過剰じゃない、事実だろ?お前さんに手紙で頼むぐらいだ。俺のこと大好きなんだろう」
「じゃあモテて良かったな」
くしゃっと紙を丸めた。さっきまでのクールさはどこへやら、冷静と情熱の間だったのか、そうなのか。
「ああ!お前さん、返事するって言ってただろうが!」
「名前は覚えた。そもそも差出人は知り合いだ。返事なら問題はない」
マイケル宛てで処理するのも彼だが、ぞんざいに扱うまでしなくていいはずだ。
「そんなに皺だらけにして……結局どうするんだ?」
尋ねると首を傾げられる。
「どうして欲しい?」
「それを俺に聞くか」
髪を掻く。始末はマイケルが行う、本人が決めるのが筋だ。その裏腹、ニールとしては無理だと突っ撥ねて欲しい。あわよくば恋人だからと言い訳を付けて。
下校時間のチャイムが響く。被せるようにマイケルはぽつりと呟き出す。
「迷ってないって言えば嘘だ。ニールの立場を優先させなきゃとか、もちろんいろいろと考える。でも……僕は貴方を知ってる。一緒にいて楽しいし、頼りになるし、他にも……でもこの人はニールこと知らないんだ。って少しもったいないとは思う」
動揺する。すごく惚気られている反面、ひやっとする台詞であった。
「おいおい、まさか紹介する気か?」
マイケルは困った風に笑う。
「いや、まあ、ニールを独り占めしたいとも思うからさ」
「あー……」
不意打ちの発言に溜め息を吐く。本当にかわいくて、愛らしい独占欲はこんなにも胸を締め付ける。
「俺も、お前さんのかわいさは誰にも見せたくないなあ」
ニールは降参のポーズを表し、照れ隠しに天を仰いだ。
書いてて恥ずかしかった。
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