現代パラレルニルマイ遠距離恋愛。牧師の生活分かりません。
メールを送る、電話をするのは一瞬で出来る。しかし会うとはかなりの労力を費やす。それが遠距離というものだ。
ニールとは付き合って半年になる。学生の身分で年上の恋人とは、我ながらよく掴まえたと評価したい。
最後に会ったのはいつだったか。もう確実な日付は頭から消えている。
しきりに連絡を取っているとはいえ、寂しさは拭えない。遠距離って大変なんだなと他人事のように思った。
手持ち無沙汰に携帯を弄ぶ。
時刻は午後十時、明日は土曜。牧師をとして暮らすニールは週末が忙しいけれど就寝にはまだ早い。
どうせこのまま悶々としてても眠れそうにない、せっかくなので電話してみようと履歴から番号を探り、掛ける。
三コールきっかり終えたあと、ぶつりと繋がった。
「マイケル?どうした?」
落ち着きのある声が耳に浸透する。
「どうしたも、何か用がなきゃ電話しちゃいけないってルールがあるなら前もって言わなきゃ後々面倒なことになるぞ」
「いきなり説教か?そんな自分ルール、押し付ける気はないさ」
「ローウェル家の家訓は押し付けがましいぐらい教えるくせにな」
「ほんとかわいげがないなあ」
溜め息を吐かれる。むしろ相手の自分勝手さにこちらが嘆きたいところだ。
「一応、用がない訳じゃないさ」
勿体ぶるつもりで、わざとらしい咳を一つ。
「強いて言うなら声が聞きたかったんだ。それだけで電話したら迷惑なのか?」
年上の言うことを聞くのが家訓なら、たまには恋人のわがままを聞くのが持論だ。だから珍しく甘えたって、きっとニールは許してくれるはず。
「……あー、もう、ほんとお前さんってやつは!」
心臓が跳ねた。何が気に食わなかったのか、予想外の反応だ。
急になんだよ、と文句を言う前に、そういえばお前さん家にいるよな、と方向転換され尋ねられる。
「今日は天気が良かったからな、星がよく見えるぜ」
窓辺に寄り、カーテンを引いて夜空を仰ぐ。地球の上で三日月が仄かに金色の輝きを発し、散りばめられた星は明るく瞬いている。
「本当だな、よく見える」
「だろ?これだけ綺麗に見える機会なかなかないさ。……あー、綺麗なのは分かるがあまり星ばっか見なさんな。そのまま下を向けって」
「下?」
目線を落として薄いガラスを隔てた通りを見遣る。暗く広がる道の、外灯の元に影があり、誰かが佇んでいた。長身で掘りが深く、大いに知った顔だった。
「ニール!」
「よお、マイケル」
ニールは片手を掲げ、僅かに存在を主張した。
驚きでうまく考えが纏まらない。こんな時間に家までやってきた意図が不可解だ。
「まさか家まで来るなんて……いつからそこに?何でここに……」
「質問が多いな。会いたくなったから来た、じゃ駄目か?それとも事前に知らせなきゃいけないルールでもあるのか?」
「こういうのは前もって知らせるのが常識だぞ。気軽に会いに行ける距離でもない」
「そりゃ狭い価値観だな。同じ空の下に住んでりゃいつでも会えるだろ」
「いつでもって……どんなに離れてても、か?」
妙な自信を添えてニールが微笑んだ。それが肯定だと分かり、もやもやしながらも嬉しさで胸がひどく締め付けられる。
確かなものはない。闇を照らす言葉だって、結果を伴って出てきた訳でもないのに、蕩ける感情が次々溢れてくる。
宇宙に彷徨う流れ星が落ちた。零れた喜びも急降下してニールに届けばいい。この恋しいという心も、すべて。
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